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詩は世界をつなぐ~フランス・ポエトリーリーディング見聞録~第10回

2015-04-08

こんにちは。村田活彦です。パリで憧れのバンドのツアーになぜか同行することになった! その続き!

 

小さなバーの前に横付けされた2階建てサロンバス。中に入ると1階はボックスシート席。ビールの詰まったクーラーやコーヒーの棚もあって、メンバーやスタッフがくつろいでいます。2階にあがると、彼ら十数人全員が休めるだけのベッド。クリスチャンがその端のひとつを指しているので、「お前の寝床はここだ」ということなのでしょう。ああ、この状況に頭が追いつかない。かぼちゃの馬車に乗ったときのシンデレラも、こんな心境だったんでしょうよ。テット・レッドってやっぱモノホンのスターだったのね。
もはや10センチくらい宙に浮いたような気分のまま、バスがスタートします。

 

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車内ではみんな、好き勝手にワイン飲んだりポーカーしたり。まさにバンドのツアーって感じです。映画やドラマでしか観たことないけど。さてどうやって馴染めばいいものか、挙動不審になっている私に、最初に話しかけてくれたのは撮影担当のカミーユでした。私が日本人だと知ると、片言の英語で

 

「俺はいま『ゴジラ』シリーズを順番に観ているんだ」

「塚本晋也の『鉄男』が大好きだ」

「深作欣二も三池崇史も北村龍平もクレイジーで好きだ」

 

けっこうな日本映画マニアでした。ブラボー! そうか、クレイジーな作家が好きなんだな。じゃあ園子温をオススメするよ!  長谷川和彦もすごいぞ、てな話で盛り上がります。

 

次に話かけてきたのはベーシストのアントワン。ちょっとここには書けないような下ネタ日本語を大声で言ってくるんだけど、どう考えてもそれ、日本のAVを観て覚えたよね? かと思えば、以前パリで日本人アコーディオニストのライブを聴いたことがあると言う。よくよく聞いたらそれ、私が東京でアコーディオン習っている先生じゃないですか。なんなの、このミラクル!

 

そんなこんなで1時間ほど軽く酔っ払い、そのあとは三々五々、2階のベッドへ寝に行きます。ローディーの人たちはさらに遅くまでポーカーしていました。

 

さて翌日。目が覚めるとバスは小さな町のホール前に停まっています。フランス北部、パリから二百数十キロ離れた小さな町。エル・スール・ラ・リ(Aire sur la Lys)という、ガイドブックどころかフランス人にもあまり知られてないところです。実はその日、6月21日は音楽の日(Fête de la musique)といって、フランス各地で無料音楽イベントが行われる日でした。つまりエル・スール・ラ・リの町では、その日のメインエベントがテット・レッドというわけです。午前中は機材搬入やセッティング。そのあと、メンバーたちと一緒にランチにいくことになりました。

 

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よく晴れた陽射しの下、オープンテラスの席。テーブルの上には赤ワイン、バゲット、フレンチフライ、タルタルステーキ、ジタンの箱。目の前にはクリスチャンが座っております。私といえば相変わらず緊張のあまり、なかなか言葉が出てきません。とはいえまたとないチャンス。なんとか独占インタビューしてみたい。苦しまぎれに英語で

「いつも帽子かぶってるんですね」

と話しかけると

「いつもじゃない。泳ぐときは脱ぐさ」

なにそのエスプリ。小説のセリフですかっ。

「あなたは本当にたくさんの活動をしていますよね。詩も書くし、歌って演奏するし、絵も描いているし」

と聞けば、グラスを軽く持ち上げ

「それにワインも飲むし、メシも食うぜ」

答え方がロックスターすぎる。たまりません。

 

そして夜。体育館みたいなホールに、この町のどこにいたんだと思うくらい人が集まって来ました。私にとっては日本で夢にまでみたライブ、もちろんフロアの最前列に陣取ります。会場はオールスタンディングだけど、年配のお客さんも結構います。テット・レッドはもうキャリア25年のベテラン。けして大メジャーじゃないけど、私と同年代かそれ以上の人たちにはけっこう知られているみたい。

 

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いちばん有名なのが『Ginette』という曲。ジネットというのは女性の名前ですね。コンサートでは、この曲のサビのコーラスを客席みんなが合唱するんです。日本にいて、それを何度Youtubeで観たことか。モニターの前で何度わけもなく泣いたことか。ただしこの曲、フランス語をがんばって翻訳してもかなり難解です。友人・マークは「テット・レッドの歌詞はシュルレアリスムだ」って言ってたっけ。

 

この日もライブの本編最後が『Ginette』でした。ステージ天井から丸いかさのついたライトが降りてきます。照明はそれだけ。薄暗いバーで古いランプが揺れている…そんなイメージのなか、ボーカルのクリスチャンがアコーディオンを弾き始めます。哀愁をおびた3拍子のメロディが流れていきます。コーラスのところで客席が歌い始めると、全身に電気が走った気がしました。一緒に歌おうとするんだけど、画面で見ていたあの光景の中に自分がいると思うと、しびれてしまってもうどうしていいかわからない。シンガロングをあおるように”Allez ! Ginett!”とシャウトするクリスチャン・オリヴィエのしゃがれ声。

 

 

  何が起きても酔わずにいられない

  夢をみて、飲んで騒いで

  いずれは夢と消えてゆく

  舞台の上のミュージシャンたち

  だけどそんな話、誰も気にしちゃいない

 

           (『Ginette』より、筆者訳)

 

 

ライブが終わるころにはほぼ放心状態でした。外に出てみると、駐車場のうえに静かな夜空が広がっています。いろんな縁がつながって、ここにいる不思議。楽屋に戻ってきたメンバーたちと一緒に遅い食事をとり、またツアーバスに乗り込み、ぐっすりと寝て早朝、パリに戻って来ました。パリはまぶしいほど晴れていました。

 

 

しかし。縁はこれだけじゃなかったんです。その2週間後もライブに出かけ、楽屋にお邪魔してレッドブルを大量に差し入れ、バックステージパスをもらって、またまた打ち上げに参加。そしてさらにその3週間後、彼らに三たび会うため、今度は南仏・アヴィニョンの町まで出かけて行きました。世界最大の演劇フェス、アヴィニョン演劇祭。町の人口約9万人口に匹敵する人々が各国から集まってくるという一大イベントの最終日メイン会場で、彼らのライブがあるというのです…。

 

と、いうところでその話は次回。À bientôt!

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