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詩は世界をつなぐ~フランス・ポエトリーリーディング見聞録~第12回

2015-04-22

こんにちは。村田活彦です。アヴィニョン演劇祭のチケットオフィスにて。ライブチケットを引き取りに行ったら、窓口でビリビリ破かれてしまいました。ホワイなぜに!?

呆気にとられている私に、受付のムッシューはユーロ札を出し始めました。そう、チケットの払い戻し希望だと思われてしまったんですね。違う、そうじゃない。あわてて「ノン、ノン、アイ・ウォント・チケット!」と身振り手振りで説明します。何とか通じたようなのだけど、今度は受付のムッシューが困ってしまいました。コンピュータの都合上なのか、どうやら同じ席の再発券ができないらしいのです。

結局、新たに発券してくれたチケットは、当初の席よりはるかにいい席。前から2列目のセンター。なにそれ。このフランス旅のあいだ、運が良すぎてこわいです。帰国する前に死んじゃうんじゃないだろか。

その夜は町のメインストリート沿いにあるポップホステル(Pop’ Hostel)に泊まりました。この宿、もしアヴィニョンで安く泊まりたいならとてもオススメです。6〜8人の相部屋(ドミトリー)で3000〜3500円くらい。しかもWiFi完備で快適。世界中から観光客が押し寄せるこのシーズンに空きがあったのが不思議なくらい…やっぱりツイてる。ただし窓の外では夜も大道芸のパフォーマンスをやっていて、遅くまで大騒ぎしていました。とはいえ旅のつかれでぐっすり寝てしまいましたが。

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翌日はまず、アヴィニョンの中心にあるカフェで美女と待ち合わせ。その美女とは…友人・マークの彼女、パリーナです。そういえばパリーナは舞台女優さんなのでした。以前はこの演劇祭に出演したこともあるらしいけど、今回は観客として遊びに来たとのこと。席につくなり、注文もそこそこに「ごめんなさい!あまり時間なくて。友人が出る芝居を観に行きたいから、あと30分くらいかな。今日はそのあとさらに2本観る予定なんだけど!」

気合入ってますなあ。パリで会った時の彼女は落ち着いたイメージだったのですが、今日はすっかり戦闘モード。この演劇祭では1,000作品以上が上演されているわけで、芝居好きなら体力の限界までハシゴしたくなるのも無理はないですが。そういう演劇ファンが各国各地から集まっているんだろうなあ。「ダウン・タウン・カフェのオープンマイクに来ていたジーズも、OFFの舞台に出てるよ! じゃ、またね!」結局ドリンクを半分ほど残したまま、あっという間に走っていくパリーナ。

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ん? ジーズってあのモヒカンの? 覚えていますでしょうか。この連載の第2回目、パリのカフェでオープンマイクに初参加した時、ゲストで参加していたウッドベース弾きがDgiz(ジーズ)。スキャットやボディパーカッションもこなす鬼才です。それは観に行かねば。

ジーズが出演していたのはふたり芝居。小さな劇場に行ってみるとすでに上演中です。どうやら父と息子の物語のようで、役者さんが演じる父親のほうが主役。ジーズは息子役をやりつつ、ベースで音楽を担当するという八面六臂の活躍ぶりです。演劇と音楽のセッションという感じでしょうか。パリのGrand Slam de la poesieでリーディングとダンスのコラボに参加した時にも感じましたが、音楽もダンスも芝居も朗読も、ジャンルの垣根がとても低いのがフランス流、なのかもしれない。べらぼうなスキャットを叫びながら舞台を走りまわるジーズを観ながらそんなことを考えていたら、最前列で観ていた私の目の前にやってきて「はびらるばらばでぃばるばるびら…ア・リ・ガ・ト!」とアドリブかましてくれました。おお気づいてくれたのね、メルシー!

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さて夜。22時を過ぎても、町なかはまだまだ人の波をかき分けないと歩けないくらいの賑わいです。移動遊園地のメリーゴーランドにイルミネーションが灯っています。そのわきを通り、ふたたび教皇庁前広場に向かいました。アヴィニョン演劇祭最終日、テット・レッド(Têtes Raides)による詩の朗読ライブがもうすぐ23時から始まります。会場となるのは、教皇庁宮殿内の特設ステージ。石造りの門のところに行列ができています。入り口でバンドTシャツを売っているのは、ベーシストのアントワンじゃないですか! 大丈夫なの? 出演者がここで物販していて!? いやしかし大物なのにスピリットはあくまでインディーズというのがテット・レッドの魅力かも。

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会場に足を踏み入れると、うわ、お客さんこんなに入ってるのか。2000〜3000席くらいが満員御礼です。そしてステージがやたら広い! そこに楽器隊が登場しました。ギター、ウッドベース、バイオリン、チューバ、アコーディオン…いつものバンド編成とはひと味違う、大人の雰囲気というべきでしょうか。

ライブのタイトルは“CORPS DE MOTS”(直訳すれば「言葉の体」)といって、同タイトルのCDも出ています。彼ら普段は「ミュゼットパンク」とも呼ばれる音楽をやっていますが、“CORPS DE MOTS”のテーマは詩の朗読。ボーカルのクリスチャンは歌ではなく、バンド演奏にあわせてポエトリーリーディングをするわけです。

楽器隊がアコースティックな音を奏でるなか、スーツ姿に帽子といういつものいでたちでボーカルのクリスチャンが舞台に登場しました。片手に皮表紙の本。ステージ中央でまっすぐ立ち、ページをひらき、片手で高く掲げ、ゆっくりと発声します。その姿がいちいちスタイリッシュ。朗読していてもやっぱりロックスターだなあ。

リーディングするのは自作詩もありますが、アルチュール・ランボーやジャン・ジュネといった詩人の作品も。淡々と読んでいくのだけど、独特の低い声で、これがまた耳に心地よいのです。彼がトム・ウェイツ好きというのも、何かうなづけます。曲が進むにつれて、次第に声が熱を帯びていきます。かと思えば、ステージの隅に置かれた木製の机に向かい、つぶやくように朗読してみたり。舞台の上はクリスチャンの書斎といった設定にも思えてきます。

1時間半にわたる音楽と朗読のステージ。フランス語のリエゾンの響きを聴いていると、なんだかそれだけで歌のようです。いやそもそも、詩も歌も同じものだったんじゃないか。世界的に有名な演劇際の最終日最終公演が詩の朗読で、深夜にこんなに人が集まるというのもすごい。フランスの人がいかに詩に親しんでいるか、大事にしているかというのを肌で感じます。ステージの最後はおなじみの人気曲『Ginette』でした。最後の一音が終わると同時に、背後から拍手が降ってきました。振り返ると、客席の隅から隅までみんな立ち上がっています。

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スタンディングオベーションの波が去ったあとも、興奮のあまりぼーっとしていると、声をかけてきた女性がいました。テット・レッドのオフィシャルショップ、La Niche(ラ・ニッシュ)で店番をしていたマダムです。ボンソワール!そしてメルシー! あの時、店のパーティに誘っていただいたおかげで、こんなにも縁に恵まれた旅になりました。いつかテット・レッドを日本に呼びたい! 日本でファンクラブ作ります! そのためにもっとフランス語勉強しないとダメですよね…! 妄想で頭をいっぱいにしながら相変わらずの拙いフランス語でメルシーを繰り返す私に、マダムは「打ち上げ行くでしょ?」と笑ったのでした。

と、いうところでまた次回。À bientôt!

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