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詩は世界をつなぐ~フランス・ポエトリーリーディング見聞録~第19回

2015-06-29

 こんにちは、村田活彦です。6月2日、パリ20区の区役所では、2015年度ポエトリースラムW杯の開会式が行われていました。会場に集まっているのは23カ国のポエトリースラム代表。挨拶をするのはこの大会の主催者、Pilote le Hot氏です。Piloteはつまりパイロットということで、これはもちろんステージネームでしょう。口角泡を飛ばす勢いで熱いスピーチをしていますが、どうみても不良中年という感じ。この人のおかげで私はポエトリー・スラム・ジャパンを主催することになった、つまり私の運命を変えてしまった張本人というわけです。

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 主催者挨拶のあと、ステージに登場したのは小学生くらいの男女混成グループ。彼らはポエトリースラムのフランス・リセ大会の優勝チームだそうです。なるほど団体戦があるんですね。見るからに可愛らしい感じで、こんな子供たちもポエトリースラムするんだ!なんて微笑ましく思っていたのですが、いざパフォーマンスが始まってびっくり。全員のコンビネーションばっちりでリズミカル。ところどころで声色変えたりヒューマンビートボックスをやったり。客席から自然と手拍子が起こります。小学生でもこんなに完成度高いのか!

 開会式のあと、彼らに少し話を聞いたのですが、ポエトリーリーディングは学校の課外授業で習っているみたい。全員10〜11歳くらいでしょうか。まずテキストを書くことからはじめて、朗読の練習に入っていくのだとか。始めてまだ1〜2年というから、子供の吸収力ってすごいですよね。こちらが日本から来たと知るや「日本のマンガ大好き!」「ナルト、ワンピース、シンゲキノキョジン…」「マンガで日本語おぼえたよ!」この無邪気さはやっぱり可愛いんですけど。

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 はからずもフランス・ポエトリーリーディングの裾野の広さ、層の厚さを知り驚いたあと、メイン会場のESPASE BELLEVILLE(エスパス・ベルヴィル)へ。この日はまず、ポエトリースラムW杯の第一回戦、第1リーグと第2リーグが行われます。少しルールを説明しますと、一回戦では出場する23名の詩人がそれぞれ6名ないし5名のリーグに分かれ、各リーグで上位3名が準決勝に進出します。審査をするのはもちろん客席から選ばれた審査員。10点満点でジャッジをします。1回のリーディングは制限時間3分。各詩人が3回ずつリーディングして、その合計点数で競うというわけ。岡野さんは第3リーグなので、とりあえず今日は客席でゆっくりできます。

 司会のPilot氏の呼び出しで、まず舞台に上がったのはロシア代表・ゲルマン。このひと、見た目のインパクトが強烈で、100kgは越えるだろう巨躯、伸ばしっぱなしの髪とヒゲ。失礼を承知でいえば野人、いや野獣というべきか。

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 そのゲルマン、マイクの前にのっそり立つと、地の底から響くような声で呪文のごときものを語りだしました。

「イリーリー イリイーリー イリイーリー イリイーイー イリイリイリ イリイリイ イリイリイリイ イリイリイリイイ イリイリイイリイリイ…イーリー!!イリイーリー!!」(これが1分以上続く)

 なんだこれは。ポエトリースラムじゃなくて黒魔術選手権でも始まったのかの如きパフォーマンス。異様な迫力に客席は度肝を抜かれています。ゲルマンの背後にはいちおう字幕が映し出されているので、英訳を書き出してみますと

  What if
  Or or
  or or or
  and and
  and OK OK
  OK OK and
  or or or and
  or or or or and…

 見事になんにも言ってねー。いや、後半になるとちゃんと意味が出てくるんです。テーマもあるんです。ただ、それより何より圧倒的なこの迫力! ゲルマンの存在そのものが空気の振動になったみたいな雄叫びに、客席からは次第に笑いがもれ、やがてそれが爆笑になり、最後には大喝采。のっけからとんでもない奴が現れちゃいました。この大会、大波乱の予感です。

 そのあとも、スーツ姿で流麗なリーディングを聞かせるスペインのイケメン詩人・Dante Alarido、ドイツ語のいかつい響きにのせて3分間ピーター・ジャクソンをディスりまくるという荒技で客席を爆笑のドツボに叩き込んだドイツ代表・Paul Weigl、参加詩人中おそらく最年長で、ユーモアとメッセージを絶妙にブレンドしたスピーチをキレのある動きとともに見せるカナダ代表・If the Poet…などなど。ひとくせもふたくせもある詩人たちが登場しました。初日からもうお腹いっぱいです。

スペイン代表
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カナダ代表
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 さて翌日の夕方。会場のエスパス・ベルヴィル前には、入念な準備運動をする岡野さんの姿がありました。準備は万端と言いたいところなんですが、どうものどの調子が良くない。それもそのはず、徹夜明けのまま飛行機にのってフランスまで12時間、その疲れもまだ十分にとれていません。しかも飛行機のなかって乾燥するんですよね。のどや気管には相当負担がかかっているはず。フランス産の名前もわからないのど薬を差し入れしましたが、本当に効くのかどうか…。そうこうしている間も、岡野さんは本番直前までテキストを読み返しています。

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 やがて19時半、岡野さんの出場する一回戦第3リーグの開演時刻です。私も前の方の席に陣取ります。となりの席には、昨日以来すっかり仲良くなったリセ大会優勝チームの子供たち。まずはこのリーグに参加する6名、さらにこのリーグをジャッジする審査員5名がステージに呼ばれました。11人の詩人と審査員たちが、舞台上で円陣を組んでかけ声を発します。考えてみれば、出場者と審査員が全員で円陣というのはちょっと変わっていますが。ともかくも試合開始!

 この第3リーグはオランダ、アルジェリア、フランス、マケドニア、ガボン、そして日本と、これまた国も言語も多彩な6選手です。その6番手として登場した岡野さん。Pilote氏が「次は日出ずる国、日本から来た詩人、ミスターオカノ!」(意訳)と紹介すると、客席からも「オカーノー!」と声があがります。その声に投げキッスで応える岡野さん。ステージ背後には日本語、英語、フランス語の3ヶ国語でタイトルが映しだされます。

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 静まる会場。固唾を呑む私。
 …というところで、また次回。À bientôt!

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