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詩は世界をつなぐ~フランス・ポエトリーリーディング見聞録~第21回

2015-07-15

 ポエトリースラムW杯2015、2日目の試合が終わったのが夜10時すぎ。夏時間のパリでは、ようやく日がくれたばかりという時間です。会場前の路上では出場者や観客がわらわらたむろしていて、それぞれに余韻を味わっているみたい。『イカ百選』『ウシ五十選』『海とゴリラ五十景』でパリの風雲児となった岡野さんも、各国の詩人やお客さんたちに声をかけられています。「あなたの世界が大好きだ!動物と哲学!」なんだかとても奥深いものを感じてくれているみたい。岡野さんもすごいが、それを受け止めるパリの観客もすごい。スペイン代表・ダンテの彼女からも「You are Monster!」と賞賛が。

 しばらくすると、主催のPilote氏が会場から出てきて「準決勝出場者はCulture Rapideに集合してくれ」と叫んでいます。会場のあるベルヴィルはアジア系移民の多いエリアで、坂道の両側に中華料理やケバブ屋の看板が並んでいるのですが、その坂道をあがっていくとオープンテラスのバーがあります。ここがスタッフや出場者たちの溜まり場になっているCulture Rapideという店。テラス席に集まって、出場者同士あらためて乾杯となりました。

 岡野さんの隣に座ったのはアメリカ代表のPorsha(ポーシャ)。彼女もまた力強いリーディングで準決勝進出しています。彼女から「明日はどんな動物の詩をやるつもり?」と尋ねられて「トゥモロー、ノーアニマル」と即答しています。ポーシャも、答えた岡野さんも大笑い。なごむなあ。スラムの試合中は本気の勝負だけど、一度ステージを経験したあとはポエトリーリーディングをする者同士、国や言語をこえてあっという間に親密になる感じがする。この瞬間こそインターナショナル・スラムの醍醐味かもしれません。

 ここで準決勝の組み合わせ抽選が行われたのですが、なんと岡野さんは翌日の準決勝第一リーグに。休息日なしの連続登板というわけです。3分のステージを3回だけとはいえ、喉の調子も完全じゃないし、指には包帯まいたままだし。大丈夫でしょうか? そういえば、一回戦の試合前になにをしていたか聞いたら「セーヌ川を眺めてました」って言ってたっけ。せめてゆっくり寝てください。大会指定のユースホステル、3人相部屋らしいけど。


 
 翌6月4日、夕方7時。会場前に来てみると、大会スタッフにインタビューしているテレビクルーがいます。聞けばカナダのテレビ局だとか。まずはドキュメンタリー番組を作り、ゆくゆくは映画にもする予定だそうです。さすが国際大会だなあ。さて、我らが岡野選手は?と見渡すと、いました。壁に向かってテキストを読み返しているジャージ姿の男がひとり。ウォーミングアップは万全かな。「調子どうですか」「いやあ、まだ…」というその声は全然回復してない。やっぱりここまでの疲労が溜まっていますよねえ。
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 とはいえ、すでに彼の頭にあるのは目の前の試合のことだけ。「『寝付けない夜』その2からやろうと思うんですけど、どうですか? こっちのほうがインパクトあるから」出場するにあたってどの選手も6編を用意しているんですが、一回戦で3作品を披露したので残っているのは『寝付けない夜のイメージ1000夜』と題したシリーズのパート1〜3。決勝戦でも3作品朗読しなくてはならないので、勝ち上がった場合には既に披露した作品のなかから再び朗読することになります。ちなみに入場チケットは一回戦と準決勝が5ユーロ、決勝戦が8ユーロ、5日間通し券が15ユーロ。会場は200席くらいでしょうか。今夜も地元のお客さんたちが集まってきました。

 準決勝第一リーグにまず登場したのはデンマーク代表、ポニーテールがトレードマークのKatrine Volsing女史。長身でなんとなくムーミンのミムラ姉さんを連想させるのですが、なめらかで早口のリーディングが印象的。続いてマイク前に立ったのは一回戦で鮮烈な印象を残したフランス代表のClotilde de Brito。一回戦で笑いを巻き起こしたのとは対照的に、ささやくようなパフォーマンスで観客の耳を自分の世界に引き込みます。

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 そして3人目に登場したのが岡野さん。「ミスターオカノ!」と呼ばれて壇上にあがり、例によって投げキッスをふりまき、例によってマイクスタンドを少し横に移動させます。背後に映し出されたのは『寝付けない夜のイメージ1000夜 その2』というタイトル。オペレータに合図を出し、字幕を確認しながら朗読スタートです。

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  仮に僕が超人でもこの精神性なら何の意味もない
  毎日オナニーして一日の短さに本気で驚く

どっと沸く客席。3フレーズ目でいきなり客席を掴んでますよ!下ネタですけど! かと思えば

  鉄砲フルーツ選手権に準決勝までナスが残る快挙

という、日本語で聞いてもシュール極まりないフレーズで「ハッハッハッハー」とやたらツボにはまっている人がいたり、

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のところでは、1秒ほど間を置いたのちに笑いが起こったり。なにがどうウケるのか、予想できないのだけどそれもまた興味深い。それにしても、先ほどまで喉がボロボロだったとは思えない落ち着いた声です。本当どうなっているのか、3分間の岡野マジック。「メルシー」のひとことでにこやかに朗読を終え、再び投げキッスをふりまいています。


 続いて登場したのはコンゴのBlack Panther。ブ、ブラックパンサーって名前がすごいなあ…なんて思っていると、フランス語で静かにメッセージが紡ぎ出されてきました。

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  Les yeux fermés je pense au Nigeria, à la RCA, la RDC, à la Syrie, la Tunisie,
  la Palestine, au Yémen

  目を閉じて思う、ナイジェリアを、コンゴ民主共和国を、中央アフリカを、シリアを、
  チュニジアを、パレスチナを、イエメンを

 そのあとのスコットランド代表Bram E. Giebenが朗読したのは、日本でも記憶に新しいスコットランド独立をめぐる住民投票についての詩。コンゴもスコットランドもそれぞれの国や地域の事情こそ違うけれど、政治的なテーマが個人の視点としっかり結びついているのが印象的です。

 そして6人目に登場したのは今大会のキャラ立ちナンバーワン、ロシアから来た野生の妖精ゲルマンことGerman Lukomnikov。吠えるように嘆き、つぶやき、腕を振り回し、舞台をうろつきます。もはやマイクが音を拾っていないんだけど、声量があり余っているので全く問題ない。何というか、ゲルマンという特別な生き物を見ている感じ。もはやこの人の存在そのものが詩です。

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 各詩人が3セットを終え、採点発表となりました。決勝戦に進めるのは上位3人のみ。1位通過はフランス代表・Clotilde de Brito、2位はロシアのゲルマン。そしてなんと、日本の岡野さんとコンゴのブラックパンサーが同点3位。どうやら3位決定のためふたりで延長線、もう一編ずつ読んで判定するらしい。あわてて舞台袖の岡野さんのところに走りました。どうします!?と興奮気味の私に、岡野さんはいつものテンションでひと言、
「ここはもう『イカ』しかないでしょう」

 …というところで、また次回。À bientôt!

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