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詩は世界をつなぐ~フランス・ポエトリーリーディング見聞録~第7回

2015-03-20

こんにちは。村田活彦です。パリのポエトリー・スラム報告、続きます。

世界20カ国の代表が集まるポエトリーリーディングの世界大会。その主催者から唐突に「カリブラージュ(お試し審査)のパフォーマーとして舞台にあがれ」と言われたのですが、なかなかお声がかからない。やきもきしているうちにも試合は進んでいきます。ちなみに英語圏では“Calibrage”の詩人のことを“sacrificial poet”つまり「犠牲」というらしいのですが、まさにそんな気分。

試合は初日と2日目が一回戦。20人の出場者が5人ずつ4つのリーグにわかれ、それぞれ3回ずつパフォーマンスを行います。そこで勝ち上がるのは各リーグの上位3名、計12人。同様に準決勝で6名が残り、決勝戦を戦います。

ひとつ面白いと思ったのは、得点発表の前のちょっとした儀式。司会者と客席が一緒になってある決まり文句をコールします。それは“le meilleur poète ne gagne jamais!”直訳すれば「最高の詩人は勝たない!」これをみんなで3回叫んでから得点が発表される訳です。うーむ。どう解釈したらいいんでしょう。フランスらしい皮肉? いや「点が悪くても気にするな」「勝負は時の運」というように意訳しておくべきでしょうか。

日本でポエトリーリーディングを10年以上やっていますが、海外でのルールやスタイル、ましてやこの熱気を全く知らなかったなあ…などと感慨にふけっていたところに、主催のPilot氏がやってきて一言。「KATSU、次おまえ出番な」うわ、来ちゃったよ。

一回戦第4リーグ。21時をまわったころで会場は満席。ステージにあがると舞台照明があまり明るくなくて、そのせいか後方の席までよく見えます。各国の代表もいる。パリの「心の友」マークもいる。結果から言えば…失敗しました。DOWN TOWN CAFÉのオープンステージで披露したのと同じ作品をやったのですが、緊張しすぎて集中できず、気がついたら終わっていました。ギアを上げる前にタイムアウトしてしまった感じ。審査員の採点もあったのですがまるで覚えていない始末。客席に戻ると、マークはにこやかに、しかしズバリと「DOWN TOWN CAFÉノホウガヨカッタ」と言ってくれました。ありがとう。そのとおりだ。精進しなきゃ。

しかしこのまま不完全燃焼では悔しい。このエネルギーをどこにぶつけたものか…と思いながら大会プログラムを見ていると、5日目昼のイベントに“Slam National de Haikus”とあります。つまり「俳句のスラム」なんだそれは? 確かにフランスで俳句が人気というのは聞いていましたが、どうやって対戦するんだ? ひとつ参戦してみますか!

というわけで3日後。俳句スラムの会場は、ポエトリースラムW杯と同じホールです。世界大会と比べるとさすがにお客さんは少ない。エントリーをしているのは30人ほどですが、当然日本人は私だけです。トーナメント戦らしいのですが、どういうルールなのか全くわからないまま試合が始まってしまいました。仕方ない、これはやりながら様子をみるしかないな。

司会者に名前を呼ばれてステージに上がると、まず舞台中央に向かって一礼。そしてマイクの前まで歩み寄り、今度は選手同士で礼。なにこれ、柔道とごっちゃになってるんですけど! 続いて司会者が赤と白、二本のハチマキを取り出しました。どちらかを選べということらしい。ハチマキをしたまま句を詠むわけか。司会者も客席も妙に静かで、厳かな雰囲気を醸しています。東洋っぽい演出なんでしょうけど、なんだかシュール。

唯一の日本人選手として負けるわけにはいかない!なんてつい思ってしまいますが、日本で俳句を作っているわけでもないし、あいかわらずフランス語も未熟。真っ当な戦い方じゃ無理です。いっそ邪道で、フランスでウケそうな単語を盛り込んで笑いをとる戦法でいこう。マイクの前に立ち、ひと呼吸おいて、三船敏郎ばりにドスを効かせた声でまず一句。

ピカチュウと NARUTOの国から アンシャンテ

                (Enchanté)

…すみません。俳句じゃないですね。季語もないし。でも客席からはクスクス笑い声が。よっしゃ!

両者一句ずつ詠んだところで判定。三人の審査員が旗を上げます。赤、赤、白。やった!まず一本先取。ていうかこれも柔道じゃないですか!

では二句目

疲れ果て 幾度くりかえす ジュヌコンプロンパ

             (Je ne comprend pas)

パリにてまったく言葉が通じない己を嘆きて詠める。これもなぜだかウケました。3セットやって2勝1敗。無事一回戦を突破です。対戦の最後はもういちど相手に一礼して舞台をおります。

この調子でなんと二回戦も勝ち抜いたのですが、いかんせん付け焼刃。俳句(といっていいのか?)はその場の思いつきだし、フランス語もおぼつきません。結局三回戦で敗退。その負けた相手が、最終的に優勝したのがせめてものなぐさめではありますが。優勝した彼女に「優勝トロフィー」を見せてもらったのですが、モチーフはお風呂に入っているご婦人、そこに折り鶴が添えてあるという謎のシロモノ。しかも実に手作り感あふれています。最後まで味わい深すぎるパリの俳句スラムでありました。

 

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夜。メトロのベルヴィル駅から坂をのぼっていくと、右手にPlace Fréhelという小さな広場があります。「Grand Slam2014」の会場のひとつでもあるこの場所には、椅子とテーブルが並べられています。隣のバーからドリンクを持ってきて飲んでる人もたくさん。そしてポエトリースラムW杯出場者たちのたまり場でもあります。大会も3日目、4日目となると出場者同士仲良くなり、試合後はこの広場で遅くまでくつろいでいます。

 

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私もその輪に加わらせてもらいビールをあおっていました。6月、外で飲むにはいい季節です。ふと思いついて、彼らからビデオメッセージをもらうことにしました。「日本のリーディング詩人に向けてひとことお願い」とカメラを向けると英語、フランス語、ロシア語、デンマーク語、ポルトガル語…それぞれの言葉で語ってくれました。

「俺はChancelier “xero” SkidmoreフロムUSA! 書き続けろ、学び続けろ、舞台に上がり続けろ!」

「スコットランドのMiko Berry だ。日本のスラマーたち、どこにいるんだ? 来年はここで会おうぜ」

 

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ああ、いいなあ。ポエトリーリーディングをやってる奴らが世界中にたくさんいるということ。それぞれのコミュニティで詩を読み、競い合い、表現を続けているということ。そんな奴らが出会い、言葉が違っても文化が違っても昔からの友達みたいに笑いあってる。そうだ、日本のリーディング詩人だってここに参加すればいいんだ。そうやって詩を作ったり朗読したりする楽しみをもっと広げていけばいいんだ。クロネンブルグ1664のビール瓶を片手に、少し酔った頭でそんなことを考えていました。

 

というところで、また次回。À bientôt!

 

 

 

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