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詩は世界をつなぐ~フランス・ポエトリーリーディング見聞録~第23回

2015-07-28

 6月のパリに旅行するときの必需品といえばなんだと思います? 私ならサングラスと即答します。実際、ちょっと目に痛いくらい日差しが強い。日本と違って乾燥しているせいか、ヒリヒリジリジリ、オーブンで焼かれる感じです。そんなわけで、ベルヴィルにあるカフェ”Culture Rapid”のオープンテラス席でも、みなさんなるべく大きなパラソルの下に陣取っています。

 店の中に入ると、こちらはテーブルが7つほどの小さなフロア。エアコンを入れていないのか(もしくはもともと空調がないのか)少しむわっとした空気のなかで、岡野さんがインタビューを受けております。英語で質問しているのはポエトリースラムW杯マケドニア代表のAfrodita Nikolova。実は彼女、本国マケドニアのポエトリースラム主催者でもあるらしい。私はいちおう通訳係。英会話のレベルは岡野さんと変わらないんですが、ひとりよりふたりのほうが安心というところでしょうか。

 ちなみにマケドニア(マケドニア共和国)って日本ではあまり馴染みがないですよね。わたしも恥ずかしながら知らなかったので、調べてみました。東ヨーロッパのバルカン半島にあって、南はギリシャ、東はブルガリア、西はアルバニア、北はセルビアとコソボに囲まれた国。公用語はマケドニア語で、アルバニア語やトルコ語を話す人も多いみたい。Afroditaによれば、マケドニアのポエトリースラムは2010年にスタートし、2012年から全国大会が開かれているとか。地方大会を通過した30数名がマケドニア代表を目指して競い合うそうです。大会には文化庁から助成もあるらしい。とはいえ彼女曰く「でも助成金はほんのちょっと」だそうですけど。

 そのAfroditaによるインタビュー、ご本人も詩を作りパフォーマンスをするだけあってかなり深いところまで質問してきます。「あなたは個人的経験から詩を書いているのですか?」という質問に「そうですね…例えばこの“バーバリーのタイトミニに対する情熱と性欲が異常”というのは、私のことですね」と答える岡野さん。そしてそれを通訳して伝えている私。

 インタビューが終わるころ、テラス席には大会出場者のための軽食が用意されていました。硬めのフランスパンと、野菜の煮物と、ミネラルウォーター。グルメの都・パリで食べる食事にしてはワイルド過ぎるというか、合宿所の炊き出しというか。まあ実際、すでに4日も顔を合わせているのでだんだん世界から集まった合宿仲間みたいな雰囲気になりつつあります。大きな寸胴鍋から、みんなの紙皿によそってくれているのはロシア代表、野生の妖精・ゲルマン。岡野さんともすっかり仲良くなっています。思えば3日前、開会式ではじめて各国代表が集まったとき、片言の英語ながら岡野さんに最初に話かけてきたのがゲルマンでした。そんなゲルマンだけあって、本国でも人気者みたい。本が15冊も刊行されていて、彼にインスパイアされたアーティストによるアンソロジー本もあるらしい。さもありなん。


 翌6月6日、ポエトリースラムW杯最終日。この日は土曜日ということもあり、W杯以外にもいくつかミニイベントが行われています。私自身はダンスとのコラボイベントに参加してきました。オープンマイク形式なのですが、朗読をする人のまわりで10名くらいがコンテンポラリーダンスを踊ってセッションする、というもの。ダンサーたちの動きが予測できなくて、これがまた面白い。W杯の出場者もフランス国内大会の出場者も自由に参加しています。パリの街中で声を出していると、詩でもダンスでも、いやどんなアートでも、好きなように楽しめばいいんだよなあ、という気持ちが自然と湧いてくるから不思議。

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 強かった日差しもかげり、そろそろ決勝戦という頃に岡野さんがやって来ました。「決勝戦でカリブラージュ(試合前に予行演習として行う朗読)やれって言われました」え、それはすごい。「イカ、やります」おお。『イカ百選』まさかの三度目の登板です。決勝戦だけあって会場は満席。ステージにあがった岡野さん「すべてのオーディエンス、すべてのスラマー、そしてすべてのイカに感謝します」の挨拶で拍手を浴びます。もはや貫禄。そして三回目にも関わらず、しっかり笑いが起こるのが嬉しいじゃないですか。これはもう、今大会屈指の「記憶に残るスラマー」といっていいんじゃないでしょうか。本当にお疲れ様!

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 さて、決勝戦に進出したのはフランスのClotilde de Brit、コンゴのBlack Panther、ロシアのGerman Lukomnikov(ゲルマン)、ベルギーの JakBrol、アメリカのPorsha Olayiwola、カナダのIF the Poetという6名。なかでも印象的なパフォーマンスをいくつか紹介しましょう。

 JakBrolの十八番は“MOZART IS DEAD!”。「モーツァルトは死んだ!」なんてタイトルからしてニヤリとさせられますが、なんとこれ、モーツァルト『トルコ行進曲』のメロディに乗せた替え歌なんです。そして原曲を知っている方ならわかると思うのですが、途中でとっても早口にならざるを得ない。それを平然とこなしていく、神業的滑舌の良さがお見事。しかも文末でしっかり韻を踏んでいます。さらに、帰国してから調べたんですが詩の内容がこれまた面白い。「今こそモーツァルトが残した文化遺産を受け継がなきゃ」というメッセージからスタートして、ユーモアに満ちた独自の音楽論、詩論が展開されていきます。一粒で二度三度おいしい、その完成度の高さに会場も大いに盛り上がります。

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 アメリカ代表のポーシャ(Porsha Olayiwola)はマイクの前に立つと必ず、うつむいて無言のまましばらく時を待ちます。それはちょうど食事の前のお祈りのようで、観ているこちらも思わず息をとめてしまう。そのときすでに彼女の世界に引き込まれてるんでしょうね。“Father”という詩は「私の父はいつも私にアメリカンドリームを手に入れて欲しがった」という一節ではじまる。また“Capitarism”という作品は「アメリカ建国の父はベンジャミンでもジョージでもトーマスでもない。作ったのは女衒のこの俺(つまり資本主義)」と言い切る。英語が完全に理解できるわけではないのだけど、彼女の個人的な経験が社会や政治の問題に直結していることはわかります。そして何より、それに正面から立ち向かう強い意思がひしひしと伝わってくる。

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 IF the Poetはおそらく今大会出場者のうち最年長。しかしそのパワフルさは年齢なんてまるで関係なし。“Conversation in a Paris Café”という作品はパリのカフェで彼が一席弁ずるという設定なのですが「移民がどうしたって? 人類の起源はアフリカなんだから、俺たちみんなアフリカ系移民じゃないか。アメリカ初のアフリカ系大統領はオバマじゃなくてジョージ・ワシントン、はじめて月面を歩いたアフリカ系はニール・アームストロングだ」てな調子。移民や人種への差別・偏見に対抗するメッセージを発しつつ、エンターテイメントも忘れない見事なパフォーマンス。さらに「言ってみりゃマリーヌ・ル・ペン(移民排斥や反イスラム主義を掲げるフランスの右翼政党「国民戦線」党首)だってアフリカ系移民だろ」と言うと、客席のパリっ子たちから「ウォー!」という歓声。IF the Poetの骨太ぶりもナイスだけど、それに賞賛で応える客席も素敵。

 そしてロシアのゲルマン。このとんでもない詩人をどう表現すればいいのでしょう。司会者が彼の名前を呼んだとたん、ステージわきで雄叫びがあがります。見ると、ゲルマンが髪を振り乱し腕を振り回している。まるで悪役レスラーの入場のよう。沸き起こる「ゲルマン」コールに投げキッスでこたえつつ、舞台に立つ森の妖精さん。よろめいてるのか踊っているのか、摩訶不思議なステップを踏み、客の注目を集めに集めて、そして吠える。“POET WITHOUT MUZZLES!”つまり「口輪を、はずした、詩人!」…まさに彼自身を表現するにぴったりなフレーズじゃないでしょうか。

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 大混戦を制したのはフランス代表、猫背の妄想ヒロインことClotilde de Britでした。キラーチューンの“Le Train”を決勝戦で再び披露して、9.9点ふたり、10点が3人という驚異的なジャッジを勝ち取ったのは圧巻。とはいえ、ここまで来たら得点はあまり関係ない気がしてきます。次から次に刺激的なパフォーマンスが登場して、それを体感しているだけで嬉しい。それだけであっという間に時間が過ぎていきます。

 ポエトリースラムジャパンにも実に様々なパフォーマーが参加してくれたけど、世界にはさらに驚くようなスラマーがいる。日本でもヨーロッパでもアメリカでもアフリカでも、文字で作品を作ってそれを読み上げる、ただそれだけのことに熱中している奴らがいる。そのことが嬉しくて、方々に言って回りたくなります。そういう奴らが一堂に会してパフォーマンスを競うと、言語や文化が違っても認め合える。確かにそれはスポーツと同じような感覚。

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 決勝戦の終わった会場前。ポエトリースラムW杯最後の夜を惜しみながら、出場者同士が話し込んだり写真を撮りあったりしています。明日には飛行機で帰国する者も多いから、もう少し余韻を楽しんでいたい。みんな示し合わせたように、坂の上の店”Culture Rapid”に流れていきます。ケベック代表のキャサリンが岡野さんに話かけています。彼女もまた、岡野ワールドに惚れちゃったみたい。感激を伝えてくれようとしているみたいなんだけど、岡野さんの顔を見るたび笑いが止まらない様子。

 ”Culture Rapid”をのぞくと、店内がすっかりすし詰めになっています。なんだろうと思っていたら、店内の小さなステージで公式プログラムにはない余興のスラムが始まりました。みんな本当にスラム好きだなあ! スペインのダンテが、ブラジルのジョアンが、ロシアのゲルマンが次々にマイクの前に立ちます。ケベックのキャサリンはなんと『イカ百選』をフランス語でカバーしてくれました。フランス国内大会に出場したスラマーたちもいます。土曜日のパリの夜。表通りはまだ少しざわざわしています。メトロの終電までに、もう一杯飲むくらいの時間はあるでしょう。

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 メルシー、パリ! メルシー、ポエトリースラム! 

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…というところで、また次回。À bientôt!

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