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詩は世界をつなぐ~フランス・ポエトリーリーディング見聞録~第9回

2015-04-02

こんにちは。村田活彦です。ポエトリーをめぐるフランス冒険記、続きます。

 

たとえば、ジャッキー・チェンに憧れて通信教育でカンフーを習い香港に行ったら本人がいてなぜか一緒に酒を飲むことになったとしたら? 私にとってはそれに匹敵するくらいの出来事があったんです、パリで。今回はそんなミラクルなエピソード。

 

実は私、アコーディオンの音が大好きで、レッスンに通っては『パリの屋根の下』を練習したりしています。アコーディオンを好きになったきっかけはフランスのベテランバンド、Têtes Raides(テット・レッド)というグループ。パリの下町の音楽「ミュゼット」とロックを融合させたような楽曲、と言って伝わるでしょうか? ミュゼットパンクと呼ばれたりもします。

 

せっかくなので公式サイトを紹介しておきますね。

http://tetesraides.fr

 

バンドのフロントマンはクリスチャン・オリヴィエといって、この人が作詞作曲、ボーカル、アコーディオンやギターまでこなす才人。パリの盟友、マークに言わせると「過去の楽器だと思われていたアコーディオンを、彼が現代に甦らせたんだよ!」とのこと。クリスチャンはCDジャケットの絵も描くし、絵本も手がけているし、さらに詩人でもあります。詩の朗読のCDを出していたり、歌詞のなかにボードレールが出てきたりもするんです。

 

私が彼らの音楽に初めて触れたのは15年くらい前。日本じゃほとんど知られていないので、ひとりで輸入版CDを聴いては楽しんでいました。そのうち歌詞を翻訳したくなってフランス語の勉強を始め、彼らの音楽に憧れてヨーロッパ式のボタンアコーディオンを始めたというわけ。

 

そんなわけで、パリに着いたその日から、絶対行きたいと思っていた場所がありました。それはパリ11区にあるテット・レッドのオフィシャルショップ、La Niche(ラ・ニッシュ)。6月某日の午後、地図をたよりに行ってみました。通りに面した店をひとつひとつ確かめながら歩いていくと、ありました。日本で何度も眺めたCDジャケットと同じテイストの看板。間違いない。口元が自然と緩むのを感じながら扉を開けると、そこはもう私にとってパラダイス、いってみれば「聖地」なわけです。壁には可愛くもアートな絵が何枚も飾られ、CDが並び、Tシャツが売られていて…嗚呼!日本から来た甲斐があった。この喜びをなんとか伝えようと、店番をしていたマダムに話しかけたのですが

 

J’aime Têtes Raides.

J’ai écouté leurs musique au Japon.

Et maintenant, Je suis la.

(ワタシハ テットレッドガ スキデース。

ワタシハ ニホンデ カレラノオンガクヲ キキマシタ。

ソシテ イマ ココニイマース)

 

たどたどしさにも程がありますね。それでもなにか通じたらしい。マダムは「今日の夕方ちょっとしたパーティがあるから来てみたら?」と言ってくれました。バンドのメンバーも来るよ、と。え、マジですか!?

 

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さて夕方、再び店を訪れると、店の奥の中庭のようなスペースで確かにホームパーティが開かれています。そしてその中心にいるスーツに帽子の伊達男、それがクリスチャン・オリヴィエ。なんたる! 15年くらい聴き続けてきたバンドのボーカリストが、目の前でワイン飲んでいます。話かけたいのだけど、すっかり舞い上がってしまってどうしていいかわかりません。と、そこに救いの手が。その会場にひとりだけいた日本人、パリ在住の画家の方が声をかけてくれました。その女性、Megumi Nemoさんは「まさか自分以外にテット・レッドを知っている日本人がいるなんて」と驚いたらしく、私をクリスチャンに紹介してくれたのです。

 

そりゃもう緊張しますよ。ただでさえ不慣れなフランス語が全く出てこない。クリスチャンの広いおでこと尖った耳を見ながら「ドラキュラの仮装したら似合うだろうなあ」ととんちんかんに失礼なこと考えるのが精一杯。クリスチャンのほうも「お、おう」てな感じです。Megumiさんは「明日の地方公演にKATSUを一緒に連れて行ってやれないか」とまで言ってくれたのですが“Non”という返事。そりゃそうか。

 

しばらくすると、場所変えて近所のバーで飲み直すことになりました。みんなでゾロゾロと移動したのは、ごく普通の安いバー。ちょうどサッカー・ワールドカップ日本戦の夜で、店のテレビでは中継が始まっています。私はといえば「クリスチャンが隣でビール飲んでる!」「テーブル・フットボールしてる!」「日本戦観てる!」みたいなことでいちいち盛り上がってしまいます。気がつけば店はバンドの関係者ばかりになっているみたい。クリスチャンが「ピザとるぞー」と言い出し、出前をとって全員におごっています。なんでしょこの庶民的なノリは。それなりに知られたバンドのはずなんだけど。

 

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やがて夜もふけ、酔っぱらってすっかり上機嫌のクリスチャンが英語で何やら話かけてきました。「トゥモロー、イレヴン」とくり返している。どうやら「明日この店に夜11時に来い」「そうしたらライブに連れてってやる」と言っているらしい。メンバーや店主も一緒になって言っています。なんですと!? 「本当だな!? 夜11時だな? 昼11時じゃないな!?」そりゃもう何度も確認しましたとも。

 

こりゃすごいことになりました。翌日の昼、友人マークにさっそく報告したら、マークも目を丸くしています。そりゃあそうでしょう。誰でも知っている大スターというわけじゃないけど、音楽好きならきっとリスペクトするベテラングループ。最近では、かのジャンヌ・モローと共演した曲もあるくらいですから。私だって半信半疑です。

 

そして夜11時。昨夜と同じ店のカウンター。しかし誰もいません。店のマスターはのんきな調子で「1時間くらい待てば来るだろう」と言うのですが、気が気じゃありません。その日はちょうど、ワールドカップでフランスが快勝していました。町中がまだ熱気に包まれている感じ。車にハコ乗りした若者が三色旗を振り回し、けたたましくクラクションを鳴らして通り過ぎていきます。

 

こんな日に終電逃したらヤバいなあ、なんて思っているうちにすでに深夜1時前です。仕方ない、このまま朝までこの店で時間つぶすしかないか。すっかりあきらめてうとうとし始めたとき、肩を叩かれました。振り向くと帽子の男、クリスチャン。

 

おおお。嘘じゃなかった。本当に来た。なんと言えばいいのかわからず固まっている私に、クリスチャンは親指で入口のドアの方を指して「あれを見な」というようなゼスチャーをします。その指の先を見ると、小さな店の外に、横付けされたでっかい2階建てサロンバスが。

 

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クリスチャンはひとこと。

「あれに乗って行くぞ」

 

 

わお。また次回。À bientôt!

2 Responses to 詩は世界をつなぐ~フランス・ポエトリーリーディング見聞録~第9回

  1. 2015-09-13 at 23:33 shimamotokan

    や〜、日本の人でテット・レドのファンがいるとは。感激してコメント残します。これまで4回ライブに行きました。感激の感激でした。この頃音楽はあまり聴きませんが、テット・レドだけは別。紹介されていた店には今度行ってみます。

  2. 2016-02-09 at 01:15 村田

    ありがとうございます!!!ライブに行かれているということは、フランスにお住まいの方でしょうか。本当、別格ですよね、彼らは。

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